◆給与のデジタル払い「新しい支払い方法のメリットとデメリット」

◆給与のデジタル払い「新しい支払い方法のメリットとデメリット」

給与のデジタル払いは、キャッシュレス決済サービスを利用して給与を支払う新しい方法です。令和5年(2023年)から解禁されました。デジタル払いは労働者にとって手間が省け、身辺の汚れや盗難の心配がない利点があります。

企業側も給与支払い手続きがスムーズになり、業務の効率化が図れます。ただし、普及率が低く、キャッシュレスに馴染みがない労働者もいますので、情報提供や教育が必要です。

また、ネット環境や電子機器の保有が難しい労働者にとって利用が制限される可能性もあります。

導入には指定資金移動業者の決済サービスの利用や労使協定の締結が必要です。

さらに、メリットだけでなくデメリットもあり、十分な対策が必要です。給与のデジタル払いは、労働者と企業の両方が利益を得られる可能性があり、今後のキャッシュレス化の進展とともに導入が進むことが予想されます。

 
この記事はこんな方におすすめ!

・給与支払いをデジタル化を検討している企業の経営者や人事担当者
・キャッシュレス決済に興味がある労働者
・労働法に関心がある法律家や学生
・給与管理の効率化を目指す経理担当者

給与デジタル払いとは?

給与のデジタル払いとは、労働者に対して給与を支払う際にキャッシュレス決済サービスを利用する方法です。

 

労働基準法の改正により、2023年からこのデジタル払いが解禁されました。

 

この解禁は、キャッシュレス決済の普及や労働者の要望の高まりに応えたものです。

 

デジタル払いの利点は以下の通りです: - 手間が省ける:スマートフォンやカードを使って支払いができるため、銀行に行かなくても給与を受け取ることができます。

 

  • 安全性が高い:キャッシュレスの残高で支給されるため、現金を持ち歩いている場合に起きるトラブルや盗難の心配がありません。
  • 業務の効率化:給与支払い手続きがスムーズになり、管理が容易になります。
  • 環境にやさしい:紙幣や硬貨の使用を減らし、二酸化炭素の排出量を削減することができます。

 

しかし、デジタル払いにはいくつかの課題も存在します: - キャッシュレス決済の普及率が低い:特に高齢者や地方に住む労働者にとっては、キャッシュレス決済に慣れていない場合もあります。

 

  • ネット環境やスマートフォンの保有が制限される:デジタル払いを利用するにはインターネットや電子機器が必要であり、一部の労働者には利用が難しい場合があります。

 

給与のデジタル払いは、労働者と企業の両方にとって利便性や効率性が向上すると期待される新しい支払い方法です。

給与デジタル払いを行うための要件

給与のデジタル払いを実施するためには、以下の要件が必要です: (1) 指定された資金移動業者の決済サービスのみ利用可能:給与のデジタル払いは、厚生労働大臣によって指定された資金移動業者の決済サービスのみを利用することができます。

 

この指定資金移動業者への申請は2023年4月1日から可能であり、審査には数か月かかることが予想されます。

 

そのため、給与のデジタル払いが実際に可能になるのは、2023年後半以降となる見込みです。

指定資金移動業者としての指定を受けるための要件

指定資金移動業者として指定を受けるためには、以下の要件をすべて満たす必要があります。

  • デジタル払い用口座の残高が100万円を超えないようにする、または超えた場合には速やかに100万円以下にする対策を講じること。
  • 残高の払い戻しが困難となった場合に、残高全額を保証する仕組みを持つこと。
  • 不正出金などの損失を補償する仕組みを持つこと。
  • 原則として、最後の入出金日から最低10年間は残高を払い戻せること。
  • 1円単位で入出金が可能であること。
  • 現金による残高の払い戻しを可能とし、かつ毎月最低1回は手数料なしで残高を払い戻せること。
  • 給与のデジタル払いの実施状況や財務状況を適時に厚生労働大臣に報告できる体制を持つこと。
  • 上記に加え、給与のデジタル払い業務を適正かつ確実に行える技術的な能力と社会的信用を持つこと。

労使協定の締結が必要

会社が給与のデジタル払いを行う場合には、労働組合または労働者の過半数代表者との間で労使協定を締結する必要があります。

 

この労使協定には以下の事項が含まれます。

  • デジタル払いの対象となる労働者の範囲 - デジタル払いの対象となる給与の範囲や金額 - デジタル払いに利用する指定資金移動業者の範囲 - デジタル払いの実施開始時期 また、給与のデジタル払いは個別に同意した労働者に対してのみ行うことができます。

そのため、デジタル払いを拒否する労働者に対しては、給与をデジタル払いすることはできません。

給与デジタル払いのメリット

外国人労働者や他の利用者に便利な方法です。

 

外国人労働者は、銀行口座開設の審査が難しいことがありますが、キャッシュレス決済用の口座ならば比較的審査が通りやすいとされています。

 

そのため、デジタル給与支払いの導入によって、外国人労働者も現金以外の方法で給与を受け取ることができ、働きやすさが向上します。

 

給与支払いのミスが少なくなります。

 

デジタル給与支払いはプログラムによって自動化されているため、手作業によるヒューマンエラーが少なくなります。

 

給与計算や支払い処理のミスが減り、正確な給与支給が可能となります。

 

従業員の給与に誤りがあると、信頼関係に影響を及ぼす可能性がありますが、デジタル支払いは信頼性を高めることができます。

 

給与データの管理が容易です。

 

給与データを電子化することで、従業員の個人情報や給与明細を一元的に管理できます。

 

紙の給与明細書を作成する手間も省け、紛失のリスクも低くなります。

 

給与データの管理がスムーズになり、従業員のプライバシーも保護できます。

 

以上の理由から、給与のデジタル払いは効率的で安全性があります。

給与デジタル払いのデメリット

給与のデジタル払いにはいくつかのデメリットが存在します。

 

まず、給与支払い事務が煩雑になる可能性があります。

 

給与のデジタル払いが選択肢に加わると、給与支払い事務が複雑化する可能性があります。

 

従業員によっては、複数の支払い方法を併用する必要が出てくるケースもあります。

 

また、新たな給与支払いシステムを導入する場合には、臨時的なコストも発生します。

給与デジタル払いの導入に必要な対応と注意点

給与のデジタル払いを導入する際には、以下の対応と注意点を考慮する必要があります。

 

システム的注意点

 

1. 決済サービスの選定: デジタル払いに適した決済サービスを、指定された資金移動業者が提供しているか確認しましょう。

 

安定したサービスを選ぶことが重要です。

 

2. 労働基準法施行規則の遵守: デジタル払いへの切り替えに際しては、労働者に周知徹底と承諾を行う必要があります。

 

具体的には、デジタル払いの方法や利用手続き、口座残高の確認方法などを詳しく説明し、労働者の同意を得る必要があります。

 

3. 負担増加の配慮: 労働者への負担を増やさないように注意しましょう。

 

振込手数料など、追加費用が発生しないようにすることが大切です。

 

4. システムの導入とセキュリティ対策: 給与情報や個人情報を扱うため、十分なセキュリティ対策を行う必要があります。

 

システムの導入前には、セキュリティ対策を徹底し、システムの安定性を確保するための対策を講じることが必要です。

 

労働者の個人情報の漏洩などによるトラブルを避けるためにも、セキュリティを重視しましょう。

 

以上の注意点を踏まえて、給与のデジタル払いを導入する際には、しっかりと対策を講じることが重要です。

 

労働者の不安やリスクを最小限に抑えるためにも、適切な対応を行いましょう。

 

労働者に対する注意点

 

労働給与のデジタル払いを導入する際には、以下の点に注意して準備と対応を行いましょう。

 

(1)労働者側との労使協定の締結 労使協定を締結する際には、労使間の交渉を行います。
労働組合が存在する場合は、労働組合との交渉を行い、労働者の代表者を選出して交渉を進めます。
労働基準法の施行規則に基づき、労使協定には必要な事項を適切に定めることが重要です。

 

(2)労働者への説明と同意の取得 労使協定が締結された後は、労働者への説明を行い、彼らの同意を得るプロセスに入ります。
指定資金移動業者が講じる以下の措置について、労働者に対して分かりやすく説明する必要があります。

  1. デジタル払い用口座の残高が100万円を超えないようにする措置
  2. 残高の払い戻しが困難になった場合に、残高全額を保証する仕組み
  3. 不正出金などの損失を補償する仕組み
  4. 最後の入出金日から最低10年間は残高を払い戻せること
  5. 1円単位での入出金が可能であること
  6. 現金での残高の払い戻しが可能であり、最低1回は手数料なしで払い戻せること

労働者が正しく理解できるように、わかりやすい表現で説明し、同意書面に説明内容についての了解を記載させます。

 

(3)個別同意の取得とデジタル払いの開始 デジタル払いの対象となる労働者に対して、デジタル払いについて個別に説明し、同意を得てから給与のデジタル払いを開始します。
労働者には同意書面を提出してもらい、デジタル払いに同意したことを証明します。
労働基準法に準拠した形で、同意書面等を作成するためには、弁護士に依頼することをおすすめします。