・コーポレートガバナンスについて学びたい人
・企業統治に興味のある人
・不祥事を未然に防ぐ方法を知りたい人
・コーポレートガバナンスのメリットとデメリットを知りたい人
・コーポレートガバナンスを強化する企業の事例を知りたい人
近年、日本の大学や企業での不祥事が報道され、注目を集めている「ガバナンス」について、詳しく解説しましょう。
「ガバナンス(governance)」とは「統治」の意味がある言葉であり、特にコーポレートガバナンスは、企業統治を指します。
つまり、「どのようにして企業をコントロールするか」ということであり、企業内に不正が発生しないようにする仕組みや、企業が効率的に業務を遂行するための仕組みを構築することが含まれます。
株式会社の場合、経営者や役員が株主のために企業経営を進めているため、コーポレートガバナンスは「経営陣が本当に株主のために企業経営を進めているかを監視する仕組み」と言えます。
つまり、株主にとっては、自分たちの財産である株式が、適正に運用されているかどうかを確認することができます。
こうした仕組みの整備が、規律正しい企業文化の形成につながり、不祥事を未然に防ぐことができるとされています。
コーポレートガバナンスを構築する根拠となる直接的な法律は存在しませんが、会社法にはこの概念に関連した規定が含まれています。
会社法では、株式会社の設立、取締役会や監査役会の構成や決議事項、株主総会の決議事項や決議方法、招集方法、取締役の解任など、様々な会社の統治方法が具体的に定められています。
また、金融商品取引法や有価証券上場規程など、コーポレートガバナンスに関連する法律や規程も存在します。
これらの法律や規程には、企業に対して、適切な情報開示や社外取締役の任命、社内規定の策定、内部統制の強化、株主権利の保護など、より厳格な要求が課せられています。
このように、コーポレートガバナンスは、法律で明示的に義務付けられているわけではありませんが、会社法をはじめとする関連する法律や規則は、企業に責任を与え、適切な経営を行うための指針となっています。
そもそもコーポレートガバナンスは、どのような背景の元に注目されるようになったのでしょうか?
時代を追ってみてみましょう。
コーポレートガバナンスが注目されるようになった背景について考えてみましょう。
まず、バブル崩壊以前は、会社の幹部には生え抜きの従業員が就任し、監査役も会社に密接な関係のある人が任命されていました。
また、株主は「物言わぬ株主」となり、経営陣が株主のために企業経営を行っているかどうかを監視する仕組みはあまり働いていませんでした。
次に、90年代以降を見てみると、バブル崩壊後に企業の資金調達方法が銀行借り入れから社債へと変化し、銀行の役割が弱まりました。
不祥事も相次ぎ、株主構成で「機関投資家」のシェアが急激に拡大したことが大きな要因となりました。
これによって、企業のあり方について適正な対応が必要とされ、コーポレートガバナンスが注目されることになりました。
すなわち、企業における統治の仕組みが適正であるかを問うことが、企業経営において重要な課題となっていったわけです。
コーポレートガバナンスは、主に2つの目的があります。
(1)不祥事を防ぐため
企業が不正を働くことを防ぐために、経営が適切に行われているか監視する仕組みが必要です。
そこで、コーポレートガバナンスの観点から、会社経営に関わる役員や監査役などの人々が、適切な情報開示やチェックを行い、企業が社会的なルールや法律に遵守しているか確認することが重要です。
これを実現するためには、独立した取締役や監査役なども必要です。
(2)企業価値、株主の利益を増やすため
健全な企業経営が行われていると、社会的な評価が高まり、結果的に企業価値も上がりやすくなります。
つまり、企業が正しく運営された場合、投資家や株主にも利益が還元されることが期待できます。
そのため、株主が意見を出せる場がある独立した役員や監査役などが設けられ、株主が安心して投資できる環境が整備され、企業と投資家の双方の利益を守ることが重要になります。
以上のように、コーポレートガバナンスは、企業の不正防止と企業価値・株主の利益増大の両方に関わる重要な役割を担っていることがわかります。
コーポレートガバナンスには、企業にとって好ましい影響と悪い影響があることが言われています。
まずは、メリットについて考えてみましょう。
メリットの中で最も大きな効果は、企業が適正に運営されることによって、投資家が安心して投資することができる安定的な経営を可能とすることです。
コーポレートガバナンスが正常に機能していると、経営者による私物化や不正行為が減り、企業の理念が守られることが期待できます。
また、適切な監督機能によって営利主義に傾きすぎることを防ぎ、企業の長期的な発展に寄与することも可能です。
さらに、不正や腐敗といった問題が減り、企業内部の円滑な運営が期待されます。
一方で、デメリットとしては、企業活動を迅速に行うことができなくなる可能性があるということです。
監督機能が働いて、意思決定の遅れが生じ、企業のチャンスを逃すことがあるかもしれません。
また、ステークホルダー自身が短期的な利益追求に走り、企業もこれに応えざるを得ず、長期的な成長が妨げられることもあります。
企業統治を整えるコーポレートガバナンスは、上場企業には必須であり、「コーポレートガバナンス等に関する報告書」の提出や「コーポレートガバナンス・コード」の遵守が求められます。
しかし、非上場の中小企業にとっては、コーポレートガバナンスの必要性が小さくなる場合があるかもしれません。
中小企業では、経営者が株主である場合が多く、また証券取引所による監視も及ばないため、コーポレートガバナンスが不要と考える人もいるかもしれません。
しかしながら、ファミリー企業であっても、他の少数株主が存在する場合もありますし、社会全体で不正を防ぐためにも、企業統治を整えることが必要です。
現代においては、企業に対する社会の観点も厳しくなっており、適切なコーポレートガバナンスが重要とされています。
これからの時代を生き残るためには、企業統治を進め、社会に貢献し信用を高める必要があります。
実際、ガバナンスが効いている企業は、取引において信用を高め、利益を増大させることができるかもしれません。
上場企業では、経営者や役員などが適正に経営を行い、株主や社会に対して説明責任を果たすために、コーポレートガバナンスが大切なポイントとなります。
そこで、上場企業では、いくつかの方法をとってコーポレートガバナンスを強化しています。
①社外取締役や社外監査役、委員会制度、執行役員制度を導入
社外取締役や社外監査役、委員会制度、執行役員制度を導入することです。
また、取締役会をCEOを除いた形で開催し、社内の行動規範や倫理規定を作成して社内に周知し、違法行為や背任行為を防ぐための仕組みを作成し、内部通報の窓口を設置することも大切です。
②「コーポレートガバナンス・コード」を基準とする
「コーポレートガバナンス・コード」を基準としていることです。
このコードは、企業に対する監視・統治を行うためのルールであり、東証と金融庁が2015年に策定しました。
このコードに基づき行動することにより、上場企業では非常に厳しいコーポレートガバナンスが適用されます。
具体的な事例として伊藤忠商事株式会社やパナソニック株式会社が挙げられます。
伊藤忠商事株式会社では、「豊かさを担う責任(Committed to the Global Good)」という企業理念に基づき、コーポレートガバナンスに力を入れています。
社外取締役比率を3分の1以上にするなど、コードに基づいた改革を行っています。
パナソニック株式会社では、「カンパニー制」を採用し、グループ全体の企業価値向上を目指して、「コーポレート戦略本社」を作っています。
コーポレートガバナンス・コードを厳格に実行し、取締役会や執行役員制度を整備し、「指名・報酬諮問委員会」を創設し、グループ戦略会議を定期的に実施しています。
また、2017年には「監査役会設置会社」から「監査等委員会設置会社」への移行を行い、新体制では複数の社外取締役による強力な役員監査を行っています。
コーポレートガバナンスを損なうことがないように、次のような点に留意する必要があります。
例えば、経営者が自己私的な目的に走り、法令遵守意識が欠如していること、組織内部で情報が隠蔽されていること、企業理念が形骸化していること、または不祥事を隠蔽しようとする雰囲気が広がっていることが挙げられます。
さらに、内部統制システムとコーポレートガバナンスの類似点と相違点についても考えておくことが大切です。
内部統制・コンプライアンスとは、企業の適正な活動を実現するための管理体制であり、「社内の」管理と「法令遵守」に焦点を当てています。内部統制は会社資産や従業員の「社内管理統制」を指し、財務報告の信頼性確保や法令遵守、資産保全などが目的です。
一方、コンプライアンスは「法令遵守」を意味しますが、今後は社会規範や企業の自主規制なども含まれるようになっています。
コーポレートガバナンスは、株主や債権者などの「経営管理統制」を指す言葉で、管理体制のあり方、企業方針や経営戦略、リスクマネジメント、CSRなどにも及ぶ総合的な概念です。
リスクマネジメントは、企業が危機に陥った際に被害を最小限に抑えるための体制作りであり、コーポレートガバナンスに含まれます。
CSRは、企業が利益追求だけでなく、社会貢献や環境保護などの社会的責任を果たすことを求める考え方です。
最近では、CSRを怠ることが企業の評価低下などのリスクにつながるため、CSRもコーポレートガバナンスに含まれると考えられます。