◆「役員や取締役が雇用保険に加入できるのか?」

◆「役員や取締役が雇用保険に加入できるのか?」

役員や取締役が一般的な労働者としての性格を持ち、賃金や報酬が支払われている場合には、雇用保険に加入することができます。

加入手続きには公共職業安定所との連携が必要であり、雇用保険料の算定には役員報酬は含まれず、労働者としての賃金のみが考慮されます。

また、このような兼務役員の存在は、経営者や役員が経営の実態を把握し、従業員とのコミュニケーションを密に取るための手段として重要であり、法的にも使用人兼務役員の権利保護がされています。

 
この記事はこんな方におすすめ!

・会社の役員や取締役で、雇用保険に加入することができるかどうか知りたい人
・使用人兼務役員で、雇用保険に加入する方法や手続きについて知りたい人
・会社経営に関わる人で、使用人兼務役員の役割や位置づけについて知りたい人
・雇用保険について詳しく知りたい人

会社の役員や取締役は雇用保険に加入できるのでしょうか?

会社の役員や取締役は、原則として雇用保険の被保険者となりません。

 

ただし、使用人兼務役員で、服務態様、賃金、報酬等からみて、労働者的性格が強く、雇用関係があると認められる場合に限り、雇用保険に加入ができます。


具体的な条件と加入手続きについて

役員や取締役が雇用保険に加入できるのは、使用人兼務役員として労働者としての性格が認められる場合のみです。

 

具体的には、以下の条件を満たす必要があります。

 

1.服務態様が労働者的性格を持つこと:役員や取締役が会社の業務に従事し、指示や命令を受けて業務をこなしている場合、労働者的性格が認められます。

 

単なる役員の立場ではなく、実際に労働者としての働き方をしていることが重要です。

 

2.賃金や報酬の支払いがあること:役員や取締役には役員報酬が支払われていることが一般的ですが、それに加えて雇用に対する賃金や報酬が支払われている場合、雇用関係があると認められます。

 

ただし、雇用関係であると認められるためには、役員報酬よりも雇用に対する賃金や報酬が主であることが求められます。

 

3.雇用保険の加入手続きを行うこと:条件を満たす役員や取締役は、会社が雇用保険に加入している場合、加入手続きを行うことができます。

 

ただし、会社自体が雇用保険に加入していない場合、役員や取締役の個人での加入はできません。

 

会社が雇用保険に加入していない場合は、その旨を役員や取締役に通知する必要があります。


使用人兼務役員とは

使用人兼務役員とは、企業の役員や取締役でありながら、同時に従業員として具体的な職務を担う立場を指します。

 

具体的には、部長、支店長、工場長などの役職に就きながら、給与を受け取る労働者としての立場を持つ者を指します。

 

使用人兼務役員の存在理由は、企業の規模や業種によって異なりますが、一般的には以下のような要因が挙げられます。

 

まず、経営者や役員が従業員として直接現場で働くことで、経営の現場の実態や問題点を把握しやすくなります。

 

これにより、経営者や役員は適切な経営判断を行うための情報を正確に把握することができます。

 

また、使用人兼務役員は組織内の一員として従業員とのコミュニケーションを密に取ることができます。

 

これにより、従業員の声や問題を直接受け止め、組織の改善や労働条件の向上につなげることができます。

 

ただし、使用人兼務役員の立場は法的にも整理されています。

 

労働者としての権利を保護するために、行政解釈によって「法人の重役で業務執行権又は代表権を持たない者が、工場長、部長の職にあって賃金を受ける場合は、その限りにおいて法第9条に規定する労働者である」と明示されています。

 

これにより、使用人兼務役員は労働者としての権利を持つ一方、経営の意思決定には直接関与しない立場となります。

 

そのため、使用人兼務役員の給与や労働条件は、一般の労働者と同様に労働基準法や労働契約上の規定によって保護されます。

 

使用人兼務役員は、企業経営において重要な役割を果たす存在です。

 

経営者や役員が現場で働くことで、経営の実情を把握し、社員とのコミュニケーションを密に取ることができます。

 

しかし、労働者としての権利を保護しつつ、経営の意思決定からは一定の距離を置く必要があります。

 

企業が適切な経営を行うためには、使用人兼務役員の役割や位置づけを正確に理解し、適切に活用することが求められます。


雇用保険適用の判断基準

雇用保険に加入できるかどうかは、使用人兼務役員の労働の実態に基づいて総合的に判断されます。

 

法律上の明確な基準は存在しませんが、以下のポイントが重要です。

 

(1) 業務執行権又は代表権を持たない役員や取締役であること 使用人兼務役員が雇用保険に加入するためには、業務執行権や代表権を持たないことが求められます。

 

つまり、会社の組織の中で、役員としての地位や役割が限定的である必要があります。

 

(2) 役員報酬と賃金を比べて、賃金の方が多く支払われていること 雇用保険に加入するためには、役員報酬と賃金を比べて、賃金の方が多く支払われている必要があります。

 

つまり、役員としての給与よりも、従業員としての報酬が主となっていることが重要です。

 

(3) 出退勤時刻、休憩時間、休日等の勤怠を管理されていて、業務遂行において拘束性が認められること 雇用保険に加入するためには、出退勤時刻や休憩時間、休日などの勤怠が会社によって管理されており、業務遂行において拘束性があることが求められます。

 

つまり、一般の労働者と同様に勤務時間や休暇の管理を受けることが必要です。

 

(4) 就業規則等が一般の労働者と同様に適用されていること 雇用保険に加入するためには、一般の労働者と同様に就業規則などの労働条件が適用されていることが必要です。

 

つまり、役員としての特権や特典がなく、労働の条件が平等に適用されていることが重要です。

 

以上の要件を満たしている場合、使用人兼務役員は雇用保険に加入することができます。

 

ただし、個別のケースによっては、判断が難しい場合もありますので、専門家に相談することをおすすめします。


兼務役員の雇用保険加入手続きと実務

兼務役員が雇用保険に加入する際には、事業主が公共職業安定所に必要な書類を提出する必要があります。

 

具体的には、「兼務役員雇用実態証明書」と、会社の定款・取締役会議事録・組織図・就業規則・賃金台帳など、雇用の実態を証明できる書類が必要です。

 

公共職業安定所では、これらの書類の内容と共に役員の性格や労働者性を総合的に判断し、雇用保険の使用人兼務役員として加入が認められるかどうかを決定します。

 

もし労働者性が強く認められた場合、兼務役員は雇用保険の被保険者として加入することができます。

 

ただし、雇用保険料の算定においては注意が必要です。

 

役員報酬の部分は算定の対象外とされ、労働者としての賃金のみが考慮されます。

 

つまり、失業給付の算定基礎となる賃金には、取締役として受け取る役員報酬は含まれません。

 

したがって、もし兼務役員が失業した場合に失業給付を受けるためには、役員報酬ではなく労働者としての賃金を基にする必要があります。

 

このことを念頭に置いておくことが重要です。

 

兼務役員の雇用保険加入に関しては、公共職業安定所との適切な連携が必要となります。


まとめ

会社の役員や取締役は、原則として雇用保険に加入することはできません。

 

ただし、使用人兼務役員で労働者的性格があり、雇用関係が認められる場合に限り、雇用保険への加入が可能です。

 

具体的な条件を満たし、会社が雇用保険に加入している場合は、役員や取締役も加入手続きを行うことができます。

 

会社が加入していない場合は、個人での加入はできません。